日本を代表する印刷会社として知られる大日本印刷株式会社。その中でも、ITを活用したサービスを展開しているのが、C&I事業部です。同事業部では、マーケティングやプロモーション、CRM、商取引、BPR、コンテンツ&メディアビジネスなど、幅広い分野で多彩なソリューションを提供しています。もっとも、事業規模が拡大するに連れて、ITサービスを支えるインフラの運用管理に多くの工数やコストが掛かる点が課題に。そこで同事業部では、ITILをベースとしたITサービスマネジメントの導入を実施しました。これによりITサービスの可視化や、標準化・スキルアップの推進などの目標を実現。さらに、変更管理業務の処理効率31.3%向上・ビジネス機会損失につながる障害等の20%削減など、ROIの面でも大きな成果を挙げています。
事例ポイント
課 題
- 高品質なITサービスの提供
- サービスに係るROIの向上
導入ツール
- BMC Remedy HelpDesk、
BMC Remedy Change Management、
BMC Remedy Service Level Agreements
(BMC Remedy IT Service Management 6.0)
効 果
- 運用プロセスの可視化・標準化を実現
- 変更業務処理効率31.3%向上
- 機会損失につながる障害等の20.0%削減
大日本印刷グループの総合力を活かし
先端的なITサービス群を展開
大日本印刷 C&I事業部では、印刷メディアやパッケージメディアやネットワーク、放送メディアなど、幅広い分野で顧客企業の情報コミュニケーション活動を支援しています。印刷ビジネスで培った経験と高い技術力を活かし、マーケティングやコミュニケーションに関わる課題を効果的に解消。事前のコンサルティングからシステム構築、情報流通に至るまで、トータルなサービスを提供しています。
こうしたソリューション群の中でも、ITを活用したビジネスを展開している企業に好評を博しているのが、多彩な商用ITサービス群です。コンテンツ流通プラットフォームサービスやストリーミング配信サービス、クレジット決済サービス、ポイントサービスなど、充実したサービスラインナップを用意。顧客企業のニーズにしっかりと応えることで、順調に業績を伸ばし続けています。
サービス品質向上を実現する
切り札としてITILに着目
もっとも、現在に至るまでの過程では、同事業部も様々な業務課題に突き当たってきました。特に問題となったのが、ITサービスを支えるインフラの運用管理です。商用サービスである以上、安定運用は不可欠の要素です。しかし、トラブルがしばしば発生するなど、サービス品質の維持や効率的な運用が、次第に困難になっていたのです。
ITサービスマネジメント部 シニアエキスパートの越智 隆氏は「各種のASPサービスなどを事業として手がけている以上、システム障害や事故などはビジネス上大きな問題になります。そこで原因を分析してみると、障害対応のプロセスが属人的である、スピードが遅いなどの要因が浮かび上がってきました」と語ります。
ソリューション提供を開始した初期の頃は、開発部隊がそのまま運用も担当していました。このことも、思うようなサービス品質が確保できない一因となっていました。ITサービスマネジメント部 シニアエキスパート 武井 光太郎氏は、体制を見直す必要性を強く感じたと言います。「大規模プロジェクトでは、20〜30人もの開発者が投入されます。しかし、その人数でそのまま運用も行うというのは、あまりにも現実的ではない。大きな障害を経験したこともあり、運用管理専任部隊の必要性を痛感しました」(武井氏)。
同事業部では、こうした課題を解決すべく、システム運用管理体制の強化に着手。運用専任担当者の配置や、ドキュメント、プロセスの整備などの取り組みを進めてきました。また、それと並行して着目したのがITILです。越智氏は「開発部隊では品質改善のプロセスとしてCMMIを導入し、高い効果を挙げていました。そこで運用管理についても、同じような指針としてITILが活用できないかと考えました」と語ります。
BMCソフトウェアとプロシードを
ITIL導入のパートナーに選択
ITILに関心を持った背景を、越智氏は「従来のように人のスキルに依存するのではなく、仕組みとして運用を廻せるようにしたかった。その点、ITサービスマネジメントのベストプラクティスであるITILに準拠すれば、業務上の課題である障害対応の迅速化や業務効率化、業務プロセスの見える化などを効果的に実現できます」と説明します。
まずはITILへの理解を深めるところから取り組みを開始し、次のステップとして運用スタッフ全員がファンデーション資格を取得。こうした活動が、やがて全事業部レベルでのITIL導入へとつながっていきます。「上層部にITILの有効性を具申したところ、事業部プロジェクトとして展開するよう指示がありました」と越智氏。これを受けて2005年10月にITサービスマネジメント部が発足し、ITIL本格導入に向けた動きが加速することになります。
ここでパートナーとして選ばれたのが、BMCソフトウェアとプロシード社でした。その理由を越智氏は「我々が目指したい方向性に対して、一番マッチした提案を行ってくれたのがBMCソフトウェアとプロシードでした。単に出来合いのメニューを組みあわせるような対応でなく、我々の要望を踏まえた提案をしてくれましたね」と語ります。また武井氏も「BMC Remedy IT Service Managementをはじめとする、ツールの使い勝手も高く評価しました。そもそも運用の最適化を図るのが目的なのに、ツールの習得や操作に苦労するようでは本末転倒です。その点、BMCソフトウェアの製品は直感的な操作が可能な上、カスタマイズも比較的容易でした」と続けます。
4つの目標を定めると同時に
ROIを定量的に把握
ITILをベースとする新たなITサービスマネジメントは、2006年4月より本格稼働を開始。これに先立ち、2005年10月よりITサービス運用業務プロセスの設計、ならびにBMC Remedy IT Service Management導入作業が開始されました。
冒頭にも述べた通り、従来型のプロセスではサービス品質が人のスキルに依存しがちである、問題解決のスピードが遅い、担当者間の役割分担が不明確であるなどの点が課題になっていました。そこで同事業部では、ITサービスマネジメントの導入にあたり、次の4点を具体的な目標として定めました。
- ITサービスの品質向上
- 運用キャパシティ(新規案件対応力)の向上
- ITサービスの可視化
- 標準化・情報共有・スキルアップの推進
さらに注目されるのが、これらの取り組みの効果、つまり投資収益率(ROI)を、定量的な数値として把握しようとしたことです。もちろん、「3. ITサービスの可視化」や、「4. 標準化・情報共有・スキルアップの推進」については、定性的な意味合いが強いため、数値的に表すのは難しい面もあります。しかし「1. 運用キャパシティの向上」や「2. ITサービスの品質向上」については、業務に掛かる時間やコストなどを分析することで、効果を定量的に計ることができます。
ITサービスマネジメントの導入に取り組んでいる企業の中には、ROIをどのように計るべきか悩んでいるケースも少なくありません。単に運用業務が楽になったとか、情報共有が進んだといったことでは、投資の正当性を主張することが困難です。まず明確な目標を設定し、その効果を事後に検証するという同事業部の取り組みは、他の企業にとっても大いに参考になるものと言えるでしょう。
業務処理効率31.3向上と
機会損失20%削減に成功
ITサービスマネジメントの導入から1年あまりが経過した2007年8月、同事業部とBMCソフトウェア、プロシードの3社は、ITILベースのプロセス運用による改善効果を分析する調査を実施しました。そこに現れた結果は、これまでの取り組みの有効性を如実に示すものでした。
その一例として、同事業部が提供するASPサービスの変更管理業務プロセスを見てみます。まずITサービス品質向上に係る成果ですが、変更処理業務に要する時間について、導入前と比較して31.3%削減という大幅な改善を実現。ユーザーからの様々な変更要求に対して、よりスピーディに対応できるようになるなど、サービス品質向上に大きな効果をもたらしました。
また、運用キャパシティ向上についての成果も、ビジネス機会損失につながる障害等の20.0%削減という結果で現れています。変更作業の失敗が原因で障害が発生した場合、ビジネスに大きなインパクトを及ぼすことになります。しかしITサービスマネジメントを導入したことで、こうした障害の発生を抑制することが可能に。さらに注目すべきポイントは、こうした効果が将来にわたっても発揮されるということです。
もし、今回の取り組みがなかったら、今後の事業の発展に伴ってITサービスの数が拡大した場合、運用に掛かる負担が急速に増大する可能性もあります。しかしITサービスマネジメントを導入したことにより、常に最適なコストで、高品質なサービスが提供できる環境が実現できたのです。
これらの効果を実現できた理由としては、
- 変更業務プロセスの標準化・可視化によって、スムーズな対応が可能になった。
- メンバー間での役割分担が明確になったことで、業務着手が迅速に行われるようになった。
- 変更を実際の業務に投入する前に確実にテストを実施し、合格基準に達したリリースのみを投入することで、変更を起因とするサービス停止や障害を未然に防いだ。
の3点が挙げられます。ITサービスマネジメント導入以前に抱えていた課題が、見事に解消されていることが分かります。
ビジネスが成長した際にも
余裕で対応できる環境が実現
ITサービス品質が向上したことによる効果は、ビジネスの様々な分野にも波及しています。たとえば、大日本印刷の事業全体に対する信頼感の向上です。武井氏はこの点について「中核業務である印刷ビジネスにくらべれば、当事業部の売上規模はまだまだ小さい。しかし、ITサービスの障害でお客様に迷惑を掛けるようなことがあると、印刷ビジネスにまで影響が及んでしまう場合があります。こうしたことを避ける上でも、安定的なサービス提供を実現していくことが重要なのです」と語ります。
もちろんC&I事業部自身にとっても、ITサービスマネジメントを確立した意義は非常に大きいと言えます。先にも述べた通り、今後事業規模が飛躍的に拡大した際にも、十分に対応できる体制が準備できています。今回構築した枠組みの上に載るサービスが増加すれば、ROIもそれに連れて高まっていきます。
ITサービスマネジメント部の青木 賢一部長は、「コスト削減や効率性の観点からROIを評価する方法もありますが、現時点ではビジネスの成長にいかに貢献できるかが問われています。そういう意味でも、今回の分析調査の結果には十分満足しています」と語ります。
さらなる成長を目指して
継続的な改善に取り組む
ITサービスマネジメントの導入にあたっては、様々な苦労もあったとのこと。たとえば、運用の手順をどのレベルの粒度で定義するか、ツールにどう落とし込むかなど、実際の作業に反映させる部分で悩んだこともあったそうです。「基本的な教育は全員が受けていますので、プロセス図を見れば行動の指針は理解できます。しかし、具体的に、どのタイミングで、何を、どうやるかといった点を詰めるのは、少々時間が掛かりましたね」(越智氏)。
もっとも、ITIL導入以前から運用改善の取り組みを続けていたおかげで、現場が混乱してしまうようなことはなかったと武井氏は語ります。「初期にはITILを意識していたわけではありませんが、ドキュメントをきちんと整備する、計画・テスト・実施のプロセスを踏む、事後には報告書を書くという、根本的な考え方の部分は同じでした。このため、何かが突然大きく変わったという印象はありませんでした」(武井氏)。まずITILありきではなく、将来的なビジョンを持って業務改善に取り組んだことが、今回の成功にもつながったと言えるでしょう。
C&I事業部ではさらなる飛躍を遂げるべく、今後もITサービスの拡充を図っていきます。ITサービスマネジメント部としてもサービス品質向上に向けた取り組みをさらに強化し、顧客企業からの期待にしっかりと応えていきます。

