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ITIL v2 と ITIL v3 はどう違う?

Vol.001 - 2008年10月07日(月2回発行)

2006年頃から現在にかけて、日本国内におけるITサービスマネジメントの注目度の向上は目を見張るものがあります。2008年7月現在で、ITIL Foundation 資格取得者の数は約5万人にのぼっています(EXIN Japan調べ)。2006年末の時点では約2万人でしたから、この1年半で資格取得者は倍以上になったことになります。おそらく今年の年末の時点では、あと1万人程度は増えることでしょう。それだけ ITIL の注目度は格段に上がっているわけで、それと同時に現代の複雑になった IT 環境をいかにビジネスに役立てるか、IT をお荷物にしないためにはどうすればいいか、ということに関して皆さんが悩み、なんらかの解答を欲しがっている状況にあることは間違いありません。

2007年6月、ITIL Version 3(以下 ITIL v3)が itSMF によって発表されました。新しく5冊の書籍の書籍が出版され、あたかも「新しい ITIL」であるかのような印象を受けます。それらの書籍の日本語化は少し遅れましたが、この8月25日に最後の書籍が日本語化されました。ようやくすべての書籍が日本語で読めるようになったのです。それらの書籍は、itSMF Japan の Webサイトで購入できます。

さて、ITIL そのもののバージョンが上がり、書籍が日本語化されると、ITIL に取り組んでおられる社内の情報サービス部の方々や意思決定者の方々、そしてソリューションを提供している方々からは、このような声が聞こえてくるようになりました。

  • ITIL Version 2(以下 ITIL v2) はもう古いの?
    ITIL v3 にしないといけないの?
  • せっかく取得した ITIL v2 の資格はなくなっちゃうの?
    ITIL v3 の資格を取り直さなきゃいけないの?
  • ITIL v3 の資格試験を受けるためには、何を勉強したらいいの?
  • ITIL v3 の資格スキームはどうなっているの?
  • そもそも、ITIL v2 と ITIL v3 はどう違うの?

ITIL v3 の書籍がやっとすべて日本語化されたので、これから ITIL v3 を本格的に学習しよう、という人は多いのではないでしょうか。また、ITIL v2 と v3 との違いに頭を悩ませている人、今後の動向に興味がある人も多くいらっしゃるのではないかと思います。

本コラムでは、これらのご質問に答えるかたちで、ITIL v2 と ITIL v3 との違いについて説明をしてまいります。また、読者の方からのご質問も承りますので、このコラムに興味を持った方はぜひとも質問なさってください。

 

 さて今回は、「ITIL v2 と ITIL v3 はどう違う?」です。
多くの ITIL に関する説明や、ITIL v2 と v3 との違いを表した文章を読んでみると、、ITIL v2 と v3 との違いについて「ITのライフサイクルを重点においてまとめなおしたものであり、ITIL v2 と v3 との違いはほとんどない」と書かれています。これは本当の話です。一部用語が統一されたり、新しい概念が盛り込まれたり、内容の詳しさ加減が調整されていたりはいますが、おおまかに言って ITIL v2 と V3 で述べられていることに大きな内容の違いや量の違いはありません。

しかし多くの方は、こうおっしゃいます。
ITIL v2 では2冊書籍を勉強すればよかったのに、v3 では5冊も勉強しなければならない。明らかに内容が増えている。
また、こうおっしゃる方もいます。
私は運用に責任のある人間だ。運用のために ITIL を参照したいのに、v3 ではサービスの戦略(ストラテジ)とか調達(トランジション)とか、私には関係のない分野の内容も含まれている。
これはこれで、間違っているとは言えません。どういうことでしょうか。

ここであらためて、ITIL v2 の構成を見てみましょう。図1です。

図1:ITIL v2 構成図
ITIL v2 構成図

ITIL v2 は、実は7冊の書籍から構成されている、「ビジネスとITとを結びつけるためのベストプラクティス」としてまとめられているフレームワークなのです。そのフレームワークは、以下の7冊の書籍で表されています。

  • サービスマネジメント導入計画立案
    ITサービスマネジメント導入の計画を行う際に考慮すべきポイントを紹介
  • サービスサポート(通称:青本)
    ITサービスの日常の運用とサポートに関するガイドライン
  • サービスデリバリ(通称:赤本)
    ITサービスの長期的な計画と改善に関するガイドライン
  • ビジネスの観点 サービス提供におけるISからの視点
    ビジネスに焦点をあてた、ITサービスマネジメントのベストプラクティスを紹介
  • アプリケーション管理
    ライフサイクルを通してのアプリケーションの管理に関する説明
  • ICTインフラストラクチャ管理
    ICTコンポーネントの管理と活用に関するフレームワークについて説明
  • セキュリティ管理
    Iサービスマネジメントにおける、文字通りセキュリティに関するガイドライン
    (この書籍だけは日本語化されていません)

図1は、この7冊が「ビジネス」と「IT(技術)」とを結び付けている、という意味で書かれています。また、この7冊の概要を紹介した「ITIL入門」という書籍も別途出版されています。

本来は、これら7冊の書籍をすべてあわせて ITIL v2 なのです。

 しかし、ITIL v2 を学習し、社内に ITIL を導入しようとなさった大半の人は、この中の「サービスサポート」と「サービスデリバリ」の2冊だけを参照している、というのが現実です。また、ITIL v2 Foundation の試験範囲もこの2冊が中心となっていることもあり、従来の ITIL v2 Foundation 資格取得対策講座や ITIL 市販本などでは、事実上この2冊の書籍の説明だけを行っています。他の5冊の書籍は見たことがない(もしかしたら存在も知らない)という人も多いのではないでしょうか。「ITIL といえば『サービスサポート』と『サービスデリバリだ』」と認識している人のほうが圧倒的に多いと思います。

これにより、ITIL v2 はあたかも「IT運用のベストプラクティス」であるかのように扱われてきました。確かにこう考えると導入しやすいことは事実だし、多くの企業や組織がIT の導入よりも運用にお金や人材を多くかけており、この部分をなんとかしたいと思っておられることも確かです。もしかしたら「ITIL は IT運用のベストプラクティスだ」と思われてきたからこそ、ITIL がここまで必要とされ、普及してきたのかもしれません。

しかし、それは ITIL のある側面を物語っていることは間違いないのですが、ITIL の目指すところである「ビジネスは IT そのものであり、IT はビジネスそのものである」という本質をすべて表していることにはなりません。ITがちゃんとビジネスの役にたっているか、ビジネスが求めるものをITがちゃんと提供しているかということはやはりビジネスの観点に立って考えないとわからない部分もあります。また、ビジネスとITとの整合性をとるためには、 ITの導入だけでなく、その前の部分(そもそもITに何をどの程度させるか、どの程度のコストをかけるか、といった部分)をビジネス戦略的に考えていなければなりません。IT運用だけを改善しても、それは ITIL 的にベストではないのです。
(ITIL のポリシーは Small Start Quick Win であり、できるところから小さく始めて成果を出すことが大事だと述べられています。ですから上記の考え方はベストではありませんが、間違っているともいえません。注意してください)

ITIL史上おそらく最も普及した「サービスサポート「サービスデリバリ」の2冊の書籍を学習し、導入しただけでは、ITIL 導入の効果を存分に得られないかもしれません。

 そこで、ITサービスマネジメントをそのライフサイクル(戦略、設計、導入、運用、改善から破棄まで)の観点でまとめなおし、ITIL の考え方全体が渾然一体となってビジネスに貢献するスタイルに変更したほうがよい、という考えに至りました。そこでまとめなおされたのが ITIL v3 です。ITIL v3 の構成は、図2のようになっています。

図2:ITIL v3 構成図
ITIL v3 構成図

ITIL v3 は、v2 で7冊だった書籍が以下の5冊にまとめなおされました。

  • サービスストラテジ
    ビジネスとITとの整合性を、需要管理や財務管理などの観点で記述。
    v2 における「ITサービス財務管理」はここに含まれる。
  • サービスデザイン
    費用対効果の高いITサービスソリューションとプロセスの設計について記述。
    v2における「サービスレベル管理」「可用性管理」「ITサービス継続性管理」「キャパシティ管理」はここに含まれる。
  • サービストランジション
    長期的な変更とリリースの活動に焦点を当てて記述。
    v2における「構成管理」「変更管理」「リリース管理」はここに含まれる。
  • サービスオペレーション
    サービスを安定して提供するための管理プロセスについて記述。
    v2における「サービスデスク(機能)」「インシデント管理」「問題管理」はここに含まれる。
  • 継続的サービス改善
    サービスの継続的な改善と、サービス廃止にまつわる課題について記述。

確かに増えた部分もあります。たとえばサービスデザインでは、新たに「サプライヤ管理」が追加されました。また、COBIT など他の標準と用語を統一したり、v2 ではわかりにくかった部分をさらに詳しく説明したりしているところもあります。

さて、ITIL v3 が登場したところで、企業や組織は v2 の導入をやめ、v3 の導入にさっさと移管してしまったほうがいいのでしょうか。答えは「なんともいえない」です。

v2 の「サービスサポート」「サービスデリバリ」は ITIL の一部にすぎないとはいえ、わかりやすいことは確かです。また、日常の運用や目先のサービス改善、可用性やキャパシティ管理といった部分は、比較的「改善したことが目に見える」ところでもあります。すでに v2 を参照して社内の ITサービスマネジメントの改善に取り組み始めた企業や組織が、無理をして v3 にシフトする必要はないでしょう。

ただ、v3 で新たに「増えたように見える」点、あるいは「実際に増えた」点に、その会社や組織が改善すべき点があるかもしれません。そういう意味では、担当者は v3 を適切に学び、その上で v2 の導入を推し進めていくか、それとも早急に v3 に移管するかを判断したほうがいいかもしれません。担当者の方が v3 を勉強することと、実際に企業や組織に v3 を導入することは分けて考えたほうがいいと思います。また、実際には v2 をベースにするけれど、v3 のいいところだけを部分的に導入する、という方法もアリです。Small Start Quick Win の精神、企業文化や従来のやりかたに沿って導入できる部分から導入していくという精神は、v3 になっても変わっていませんから。