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ITIL サービスデザイン − キャパシティ管理
Vol.009 - 2009年02月24日(月2回発行) 今回は、サービスデザインの「7つのプロセス」の3つめ、「キャパシティ管理」について解説をしていきます。 本コラムでも何度もお話をしていますが、「サービスデザイン」では事業戦略に基づいてITサービスの設計を行います。それは「サービスデザイン」に限ったことではなく、ITIL 全体に言えることでもあります。ITサービスの設計時には、現在必要なITサービス要件を参考にするだけでなく、事業が将来ITサービスに求めるであろうキャパシティも考慮に入れて設計することが求められます。キャパシティ管理が「サービス・トランジション(導入)」の段階ではなく、「サービス・デザイン(設計)」の段階に入っているのは、このためです。ITインフラストラクチャを導入後、すぐに変更を余儀なくされるようでは、そのITインフラの導入は失敗といわざるを得ません。導入後すぐの変更は、コスト的にも時間的にも無駄な投資が必要になってしまいます。事業ニーズの変化や市場の変化によってIT サービスに必要となるキャパシティが変化し、ITインフラを変更せざるを得なくなってしまう、というようなことは、設計段階で防がなければなりません。 キャパシティ管理の目的は、IITL書籍には「ITのすべての領域に、正当なコストのITキャパシティが常に存在し、合意された現在および将来のビジネス・ニーズにタイムリーに適合するようにすること」と書かれています。重要なのは後半部分です。すなわちまずビジネス・ニーズがあるのです。そのビジネス・ニーズがITサービスを利用したいときにタイムリーに利用できることが、キャパシティ管理の最終的な目的なのです。それをITサービスに対して適切なキャパシティを適切なコストで確保することによって実現するのです。さらに、現在のビジネス・ニーズだけでなく、将来(少なくとも数年程度)も見据えた計画をたてる必要があるのです。 将来を見据えたITサービスを行うためにも、現在、将来のビジネス・ニーズを正確に把握すると共に、現在のITサービスのキャパシティを測定し、評価する必要があります。キャパシティ管理とは、ただ必要なキャパシティを確保するだけではありません。常に測定し、評価し、改善するという役割も持っているのです(それは他のプロセスに関しても同じことが言えますが)。 キャパシティ管理の達成目標には様々なものがありますが、ITIL書籍にはそのひとつめに、次のように記述しています。
とあります。たとえば、今後の事業戦略において、「商品の売り上げを今後3年で10%拡大する」というようなものがあった場合、その戦略に見合った商品管理、顧客管理、売り上げ管理のためのシステムが必要になるでしょう。その中にはネットワークのキャパシティやデータベースのキャパシティなどが含まれることでしょう。これらのIT資源環境を、現状だけで判断して整えるのではなく、近い将来(つまり10%の売り上げ拡大が実現した場合)必要となるキャパシティを視野に入れた計画が必要となります。 さらに ITIL書籍では、キャパシティ管理の達成目標について次のようなことも述べられています。
これらを簡単にまとめれば、次のようなことでしょうか。
ちなみに、このキャパシティ管理の適用範囲は、ITのすべての領域(ハードウェアやソフトウェア)を網羅すべき、となっています。さらに人的資源に関しても考慮すべきだとなっているのですが、人的資源に関してはなぜか限定的な書き方をしています。すなわち、人的資源が不足することで SLA や OLA を遵守できないとか、ビジネスに明らかに支障をきたすとわかっている場合に限ったほうがいい、としているのです。ここは筆者の想像の域を出ませんが、人的資源はハードウェアやソフトウェアなどと違ってそう簡単に増やしたり減らしたりすることができない上に、人を増やしたからといってうまくいくとは限らないという現実があるからではないでしょうか(プロジェクト管理の書籍の中にも、プロジェクト・チームの増員は最終手段であり、増員することによって納期遅れを取り戻したり技術レベルを補填したりすることに期待するのは望ましくない、と書かれているものが数多くあります)。その一方で、サービスデスクのスタッフ配置に関しては、キャパシティ管理と同じ技法を用いるのがよい、としています。例えばスタッフの配置やローテンションスケジュール、スキルレベル、人数といったような要素を、キャパシティ管理の技法を用いて管理するわけです。 しかしながら、目標を達成することだけに注意を向けた設計にしてしまうと、ITサービスを提供する際のコストが高くなってしまいます。費用対効果を考え、事業ニーズに応えるためのITサービスとして選択できる中の一番効果的なものはどれか、という視点に立った設計を行わなければなりません。つまり必要なリソースとコストのバランス、あるいは、需要と供給のバランスを取ることが重要です。それらのよりどころとなるのは SLA であり、それを補完する OLA や UC であるわけです。また、このような特性から見ても、キャパシティ管理は戦略から設計、導入、運用、そして改善へと至る全てのサービス・ライフサイクルに密接に関わっていくことになります。 ところで、キャパシティ管理は前述の通り、組織のITサービスにかかわるハードウェア、ソフトウェア、さらには一部の人的資源をトータルにバランスよく管理する必要があります。キャパシティ・マネージャは、事業をよく理解し、将来を見据える目を持ち、さらに技術的要素に長けた人物であることが求められます。そのためキャパシティ管理では、その管理プロセスをさらにわかりやすくするために、キャパシティを3つの異なる側面から考える3つのサブプロセスを含みます。
では、これらのサブシステムを一つ一つ詳細に見てみましょう。 事業キャパシティ管理 事業キャパシティ管理の達成目標は、将来に渡る事業要件を確実に検討・理解し、そのために十分なITキャパシティを確実に計画・実装できるようにすることです。ビジネス・ニーズと事業計画をITサービスに必要な要件に変換し、ITサービスが事業要件をタイムリーにサポートできるようにします。 そのためは、現在所有しているITサービスの全てのリソースと将来のビジネス・ニーズを定量化して比較します。その上で、現在のIT サービスが将来の事業要件に十分答えることが出来るのか予測します。予測の結果、もし将来の事業ニーズにITサービスが応えるためのキャパシティを持っていないのであれば、事業ニーズに応えられるよう新しいITサービスを設計したり、現在のITサービスのキャパシティを適切に変更したりといったことを計画します。つまり将来の事業要件に対して傾向を分析し、予測することが大切なのです。この時点で、SLA や ITサービス設計は、事業キャパシティ管理から何らかの影響を受けるでしょう。 事業キャパシティ管理によって事業戦略やそれによる新しいITサービス導入の計画立案、設計などの早い段階から関わることができるので、サービスの品質を保つことが可能となります。 サービス・キャパシティ管理 サービス・キャパシティ管理の達成目標は、現在所有しているITサービスが持つリソース、キャパシティ、利用傾向などを理解し、それらが合意された SLA や SLR を満たすようコントロールすることです。ITサービスが遵守すべきキャパシティの目標値としてのよりどころは、SLA や SLR です。これらの記載されている全てのITサービスのパフォーマンスとキャパシティを適切にモニタリングし、SLA に記載されているそれぞれの目標値と比べます。その結果、目標値を達成できていないものについては、その結果を顧客やプロバイダに報告し改善を促すことになります。 モニタリングには、適切なキャパシティ管理ツールの導入が欠かせません。ここではキャパシティ管理ツールの詳細に関しては触れませんが、ITIL の考え方に基づいた、ITサービス単位でパフォーマンスやキャパシティをモニタリング・記録できるツールの導入が望まれます。 サービス・キャパシティ管理の成功の鍵は、パフォーマンスの変化と変更のインパクトをモニタリングすることで、課題を予測することです。従ってこのサブプロセスも、モニタリングして評価するというリアクティブな要素よりも、モニタリングした結果を元に将来を予測するというプロアクティブな要素のほうが重要になります。予想される課題に関しては、それが顕在化しないうちに対応する積極的・早期的対応が望まれます。 コンポーネント・キャパシティ管理 コンポーネント・キャパシティ管理の達成目標は、ITサービスをサポートするために使用される個々のコンポーネントのパフォーマンスやキャパシティを特定し、理解することです。具体的には、ディスクやネットワークなどのインフラストラクチャや、アプリケーション、環境などをモニタリングし、記録、分析します。サービス・キャパシティがITサービスにフォーカスしてモニタリングするのに対し、コンポーネント・キャパシティは個々のITリソース(技術的な部分)にフォーカスを当ててモニタリングします。収集し分析されたデータは、技術的な側面から SLA の目標値に対して違反がないか、あるいは違反の恐れがないか検討します。このサブプロセスも例外ではなく、リアクティブな対応よりもプロアクティブな対応が望まれることになります。 キャパシティ管理は、これらのサブプロセス毎に、次のような活動を行います。
各サブプロセスと個々の活動、そしてこの後で触れるキャパシティ管理情報データベース(CMIS)との関係を、図1に示しました。これは ITIL書籍に記載されている図を一部抜粋したものです。 図1:キャパシティ管理情報データベース(CMIS)との関係 キャパシティ管理によって集められた各種データは他のプロセスでも利用することが多いため、データを利用しやすい状態にしておく必要があります。もちろんそれらのデータは正確で、最新のものでなければなりません。そうしたデータの更新に関しても、キャパシティ管理の責任です。キャパシティ管理の活動に必要なデータが記録されている場所を、キャパシティ管理情報システム(CMIS)といいます。これは ITIL v2 になかった用語なので、注意が必要です。 CMIS に集められ登録され利用される情報としては、次のようなものがあります。
事業データには、現在と将来のビジネス・ニーズに関する品質情報が登録されます。さらに、例えばユーザー数やアカウント数、作成された請求書の数、製品ラインの数といったITサービスのキャパシティに影響を与えそうな事業取引に関する数値や測定値も含まれます。これらの事業データは、事業ニーズが変化することでITインフラストラクチャのキャパシティとパフォーマンスにどのような影響があるのか把握・予測したい時に参照されます。 サービス・データには、トランザクション応答時間、トランザクションレート、作業負荷の量といった SLA や SLR に記載するために必要となるサービスの目標値に関するデータが含まれます。日々の運用の中で、ITサービスが SLA で合意したサービスレベルを守っているかどうかチェックしたり、将来を予測したりする時に参照されます。 コンポーネント使用データには、ITサービスをサポートする上で必要となる個々の技術コンポーネントに関する使用率やしきい値、使用制限に関する情報といったリソースデータが含まれます。ITサービスで利用される各コンポーネントには通常、この値をオーバーするとサービスパフォーマンスが著しく損なわれてしまうという使用制限が設けられています。それぞれのコンポーネントの使用率が、使用制限をオーバーしないように監視したり、将来を予測したりする際に参照されます。 財務データには、キャパシティ管理が将来の事業要件のために必要となるITサービスのアップグレードや新規のサービス計画のために、そのシナリオを提示する際に必要となる財務コストを含みます。この情報は財務管理プロセスから与えられます。 その他、CMIS には次のようなデータも含まれます。
パフォーマンスとキャパシティに関するデータの中には、リソース毎のキャパシティのしきい値、サービス毎のキャパシティのしきい値、様々な例外レポートなども含まれます。 最後に、キャパシティ管理の重要成功要因(CSF)を挙げておきましょう。
本コラムの中でも(そして ITIL書籍そのものの中にも)「現在と将来の・・・」という表現がたくさん登場します。これは、キャパシティ管理は常に、事業とIT に関する現在の状態の把握と、将来の予測が必要である、ということを物語っています。パフォーマンスやキャパシティに課題が発生してから対処するリアクティブな活動だけでなく、将来の課題を予測し、前もって対応するプロアクティブな活動が必要なのです。しかもそれは、事業に対して決してオーバースペックになったり、コスト超過を引き起こしたりするものではなく、常に事業に対してちゃんと説明のできるものでなければならないのです。 もうひとつ重要なのは、モニタリングと評価です。モニタリングし、計測できなければ評価することはできません。事業要件、現在のIT サービスが持つパフォーマンスやキャパシティを適切に数値化し、分析し、評価することで、ITサービスが適切に事業を支援しているといえる根拠となるのです。 次回は、4つ目のプロセスである「可用性管理」についてお話をすすめます。お楽しみに。 |

